健康長寿戦略

健康長寿のカギはミトコンドリアが握っている

毎日の生活はミトコンドリアのおかげ

我々は朝起きると伸びをして「ああっ よく寝た。おはよう!」と声を出し、コーヒーを飲んで、朝ご飯を食べながらニュースをチェックする。これら一連の動作は、脳、神経、筋肉のお世話になっている。脳、神経、筋肉が動かなければ声も出せない。水も飲めない。ニュースもチェックできない。でも、この脳、神経、筋肉もエネルギーが供給されなければ機能しない。我々の身体は60兆個ともいわれる細胞からなっているが,脳には神経細胞やグリア細胞等が筋肉には筋細胞、筋衛星細胞等が神経には神経細胞やシュワン細胞がその機能を担っている。ロボットはバッテリー電源からの電気の供給でモーターやコンピューターが作動するが、我々の身体は電源部分だけが分離されているわけではなく一つ一つの細胞の中にミトコンドリアと言う発電所のようなエネルギー供給用の小器官があり、そこから各細胞の活動に必要なエネルギーが細胞内部から供給される。我々が食べた食品が消化分解された後に体内に吸収され血流にのって糖質や脂質やアミノ酸およびビタミンミネラル、ポリフェノール等の有機小分子の形で細胞内まで運ばれミトコンドリアは糖質と脂質を酸素で「燃やして」エネルギー(ATPという高エネルギー化合物)を取り出している。このエネルギーで脳、神経、筋肉他を動かしている。このように我々の生活は寝ても覚めてもミトコンドリアのお世話になっているわけである。「ミトコンドリアこそが生命の源だ」とも言える。このミトコンドリアが「寿命の長さ」に深くかかわっていることが最近の研究で次々にわかってきている。ボケずに寝たきりにならずに最期まで自立した生活を送りたい我々の「最期まで元気はどうすれば達成できるのか」との問いは、「ミトコンドリアを若々しく保つにはどうしたらいいのか」との問いと同じなのかもしれません。

ミトコンドリアが老化の進行のカギを握る~抗酸化サプリメントと運動~

ミトコンドリアは生命活動の源なのですが、困ったことに、酸素でブドウ糖や脂質を「燃やして」エネルギーを作り出すときに、同時に「活性酸素」という猛毒を同時に作ってしまいます。(消費酸素の0.1-2%と言われています)この活性酸素が、細胞内で生命活動を担っているタンパク質(筋肉ではアクチンやミオシンというタンパク質が筋肉収縮の主役である。)や、悪くなったタンパク質を新たに作り出すための設計図であるDNAを攻撃して変性させてしまう。いわゆる「体がサビて老化する」とよく言われている現象である。これがミトコンドリア酸化ストレス老化仮説である。300以上もある老化仮説の中でも、最もポピュラーな老化仮説です。この仮説に従えばミトコンドリアから発生する活性酸素を中和できるビタミンCやビタミンEや抗酸化物質を多く摂取すれば老化をスローダウンさせて若さを保てると、多くの人が考えてきましたし、今も多くの人が考えています。しかし、どうも、そんなに単純な話ではないようです。実は、抗酸化サプリメント(β-カロテン、ビタミンA,ビタミンC,ビタミンE、セレニウム)を長期摂取しても総死亡リスクを低下させないどころかβ-カロテン、ビタミンA、ビタミンEに至っては総死亡リスクを増していることが観察研究ではなくランダム化プラセボ対照臨床研究を対象にしたメタアナリシスで明らかになっています。平たく言いますと、抗酸化サプリメントは老化をスローダウンしないどころか早めることすらあったと言うことです。
さらにショックなことに、運動の健康増進効果(食後の血糖値を速やかに元のレベルに戻す能力を増加する効果、活性酸素の毒消しをする抗酸化酵素を増加させる効果、若いミトコンドリアを増加させる効果)をビタミンC(1日1000mg)とビタミンE(1日400国際単位)が帳消しにしてしまったのです(ドイツのRistow博士チームが2009年に米国科学紀要に論文報告)。この事実の意味するところは、ミトコンドリアから発生する活性酸素が実は運動の健康効果を発現するのに必要だった。つまり健康効果を発現させるトリッガーになていたということです。今では、適度な運動でミトコンドリアから放出される活性酸素は健康効果につながり、過剰な運動や、逆に運動不足で年を重ねるとミトコンドリアが劣化して過剰な活性酸素が発生し老化を進行させると考えられています。
「運動は健康長寿の薬」「運動不足は老化促進の毒」「体外からの抗酸化サプリメントは、運動の健康効果をカットするし体内の抗酸化酵素をスポイルして弱体化する」と言うことです。運動はすごい!ミトコンドリアはすごい!抗酸化サプリメントは要注意!