ピンピンコロリ大作戦 実践編

知って得する食事の選択!        健康寿命を 延ばす食品vs縮める食品

はじめに                       ~今さら食習慣を変えろと言われてもなぁと思ってる人へ~

高齢者が最も恐れるべきは、脳卒中や心筋梗塞のような病気に襲われ、一人では生活ができない不自由な、晩年になってしまう事だ。そんな事態を避けるには、日常の食事選択が重要であることを、故・近藤正二博士の「新版 日本の長寿村・短命村」(サンロード出版)が教えてくれる。昭和10年から36年の間、日本全国990カ所の町村で行われた調査は驚くべき結果を示している。短命村の住民は40歳を過ぎると次々に脳卒中に襲われ、60歳以上の高齢者は少ない。一方、長寿村では80歳を超える高齢者が畑仕事を続ける健康な生活をしている。この違いの背後には、食生活の違いが隠れていた。食品の選択が健康長寿に直結することを、明らかにしたのだ。海外でも多くのコホート研究(※1)がこの事実を裏付けている。本記事では、これらのコホート研究をメタ解析(※2)した結果を中心に、食品の選び方と健康寿命の関係について深掘りしていく。なお、がん宣告を受けたのちに健康的な食事に変えた人達の方が西洋型の不健康な食事を続けた人と比較して生存率が高いとのメタアナリシス研究結果は、食習慣を変えるのに遅いということはない事を雄弁に物語っている(出典1)。ともあれ、最晩年でもキレキレでいるには科学的なエビデンスに基づいたルールを知ることである。今回は、その中でも食事選択のルールを理解し、その制約の中で思いっきり美味しい食事を工夫して楽しみながらキレキレ生活をゲットして頂きたい。知ることは力だ!
※1 コホート研究とは、あるグループを追跡して、死亡を含む健康状態の変化を調べる観察研究だ。コホートとは「集団」を意味する。コホート研究の例としては、肺がんと喫煙の関連性を調査する研究が挙げられる。対象集団を、喫煙習慣がある群(曝露群)と喫煙習慣がない群(非曝露群)に分け、将来的に何人が肺がんを発症し死亡するか、または肺がんを発症しないかを調べる。
※2 メタ解析(meta-analysis)とは、①過去に独立して行われた複数の研究の結果が異なる場合 ②被験者数が少なく、正確な評価ができない場合に有効で複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計解析手法だ。採用するデータは、的確な基準と方法に基づいて、信頼性の高いものに絞る。ランダム化プラセボ対照試験のメタ解析は、根拠に基づく医療 (EBM) において、最も質の高い根拠とされている。本ブログではコホート研究のメタ解析で、根拠の質は中程度だ。最期まで元気戦略は本当が確定したメタアナリシス情報を基にしようも参考記事だ。

最期までキレキレ/病気フリーのための食習慣とは

メタアナリシス研究から得られた結果から、食品は大きく分けて「健康寿命を延ばす食品」「健康寿命を縮める食品」左記2つの「中間的な食品」の3カテゴリに分けられる。この食品の分類を理解し、食事の選択に活かすことで、病気フリーの長寿を手に入れる可能性がぐ~んと高まる。図-1をご覧いただきたい。縦軸の全死因死亡リスクとは、がん、脳卒中、心筋梗塞、肺炎、糖尿病等々あらゆる死亡リスクをすべて足したものだ。つまり全死因死亡リスクが高まるということは短命村の人たちのように60歳ころまでにがんや脳卒中と言った慢性病が発症してしまって、介護が必要な状態になってしまう確率が高まることを意味する。反対に、全死因死亡リスクが低下するということは長寿村の人たちのように80歳になっても野良仕事ができるほど健康である確率が高まるということだ。それでは、長寿村の人たちのように最期まで元気にいるための賢い食事選択のルールはというと、そんなには難しくない。以下だ。毎日の食事では、「健康寿命を縮める食品」(毎日の摂取量が多ければ多いほど死亡リスクが高まる)は、避ける。ただし、「ご褒美食」として、誕生日とかに、たまに食べる分には、問題はない。毎日の食事では、変わりに「健康寿命を延ばす食品」(毎日の摂取量が多ければ多いほど死亡リスクが低下する)を中心に「中間的な食品」(毎日の摂取量が少ない場合はわずかに死亡リスクが低下するが大量に摂取すると死亡リスクが高まってしまう傾向にある食べ過ぎ注意食品)も適度に摂取することで、健康寿命を延ばすことが可能になるのだ。高齢者が最期まで自立生活するための食事選択は、実にシンプルで、これが基本だ。最期までキレキレ・病気フリーのための食の注意点は、食の選択以外に、絶食の仕方、各種食品を食べるタイミング(朝・昼・晩)等あるのだが、本記事は食の選択、つまり何を食べるべきなのかに関する食の基本中の基本を扱った。それでは具体的に個別の食品群毎の健康リスクを見ていこう。

タンパク質摂取は魚介類・豆類中心で

私たちの身体を機械に例えると、その部品のほとんどがタンパク質でできている。この部品は絶えず「劣化→分解→合成」というサイクルを繰り返し、私たちの身体の機能を維持している。しかし、年を重ねると、細胞内部で起きる劣化部品の分解による合成原料の調達能力が低下する(細胞内のリサイクル機能=オートファジーの勢いが年をとると低下する)ので外部からの原料供給を増やさないと部品の合成が低下してしまい身体機能が低下してくる。ここでいう部品の原料はアミノ酸で、食物中のタンパク質は消化管で分解され、アミノ酸や、2~3個のアミノ酸が結合したペプチドとして吸収される。これらが身体の各部位に供給され、各組織の細胞で部品の合成が行われる。高齢になると食事量が減少し、タンパク質の摂取も減少する。このため、例えば筋肉の合成のための原料が不足し、新しい筋肉が十分に生成されないことで、筋肉量低下・筋力低下のサルコペニアになる可能性がある。このように、高齢者にとってはタンパク質の摂取は極めて重要だ。ただし、ちょっとややこしいが、以下の注意が必要だ。最適な炭水化物に対するタンパク質の摂取比率は65歳前後で異なるのだ。オートファジーが健全な65歳までは、オートファジーの勢いを増加させる低タンパク質高炭水化物の食事パターンが老化を遅らせる。一方、オートファジー機能自体が低下してくる65歳以上の高齢者では炭水化物に対してたんぱく質を多めに摂った方が良いのだ(出典2)。このように「高齢者こそタンパク質を食べるべき」は正しいのだが、果たして高齢者のタンパク質源として毎日肉を食べるのが最善なのだろうか?コホート研究のメタアナリシス研究を見ていこう。肉の毎日摂取量と全死因死亡リスクの関係をメタ解析した結果を示したのが図-2-1(点線で囲まれた領域内に95%の確率でメタ解析した平均値が存在する)だ。

何と、毎日、肉(牛肉、豚肉、羊肉等のほ乳類の肉)を食べる量が多ければ多いほど死亡リスクが増加している!(出典3)え~っ本当?まさか!でしょ。だって、タンパク質を多くとれば、身体部品を供給出来て若さを保てるはずなのに・・何で??さらに、ハム・ソーセージ・ベーコン等の加工肉も同様に死亡リスクを増加させる。加工肉の場合、さらに悪いことに摂食量当たりの死亡リスク増加は肉よりも激しいのだ(図-2-2, 出典3)。なぜ肉や加工肉は健康寿命を縮めるのか私も不思議に思い、徹底して調べた結果を本ブログの別記事(「毎日肉」が身体に悪い本当の理由とは?)に書いたので興味のある方は、そちらをご覧ください。簡単に触れておくと、牛肉や豚肉を消化吸収すると、アレルギー性の物質(Neu5Gcと略記される糖の1種であるN-グリコリルノイラミン酸)が肉細胞の表面にある糖鎖から放出され、それが血管壁や大腸壁に取り込まれその部分でアレルギー性の持続的な炎症が起こり動脈硬化(悪化すると心筋梗塞や脳梗塞を発症)や大腸がんの発症につながる。このNeu5Gcは魚類や鳥類の肉には、ほとんど含まれないがほ乳類の肉には大量に含まれている。ヒトもほ乳類だがヒトはこのアレルギー物質を作る酵素の活性を失っているのだ。それが原因でほ乳類の肉はヒトに対してアレルギー性を持つことになったのだ。余談になるが精進料理のみを一生食べ続けた、つまり一生肉を食べなかった、つまり一生植物性食品のみを食べた僧侶の死後解剖をした病理学者が、高齢にもかかわらず血管の若々しさに驚いたという話を、かつて読んだことがある。話を戻して、それでは、「高齢者は、タンパク質を何でとればいいのか問題」に救いはないのか・・・? 大丈夫。あります。図-2-3の魚の摂取量・全死因死亡リスクの関係を見て下さい。肉とは真逆の関係で、食べれば食べるだけ死亡リスクが低下する。すなわち健康寿命を延ばす食品だ(出典3)。いいじゃないですか!さらに、植物性の蛋白質が豊富な大豆を含む豆類も、肉と真逆の関係、つまり健康寿命を延ばす食品であることが分かる(図-2-4, 出典3)。豆腐、納豆、豆乳や豆類食品はお勧めだ。図には示していないが、最近、魚やエビ・カニ・貝類に多く含まれるタウリンというアミノ酸(ファイト~一発!で有名な栄養ドリンクに入ってるやつです)が、何と健康寿命を延ばす食品成分であることが、サルで確認されヒトでも期待できる疫学的証拠が報告された (出典4)。つまり魚ばかりか、エビ、カニ、あさりも含めた魚介類の摂取はお勧めだ。また卵や乳製品は「中間的な食品」で、卵なら1日1個以下、乳製品は牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトの合計で1日400gまでなら健康寿命を縮めることはない(図-2-5, 図-2-6 出典3)ので、高齢者は、これら食品でたんぱく質の不足分を補える。また鶏肉は図では示さないが非常に弱い「健康寿命を延ばす食品」なので、どうしても肉々しいものが好きと言う方は、肉(牛肉、豚肉、ラム)を鶏肉に置き換えると高齢期に起こる慢性病リスクは低下させることができる(出典5)。結論的には、『牛肉・豚肉やハム・ソーセージ・ベーコンは毎日常食するのはやめて、特別食・ご褒美食として、たまに食べることにする。代わりに、豆類(豆腐・納豆・豆乳・湯葉・枝豆・豆スープ等)・魚貝類を常食する。肉々しいものを食べたければ鶏肉で代用する。また卵や牛乳・ヨーグルトは1日制限内で追加してタンパク摂取量を確保する。』このルールで、最期までキレキレ・病気フリーの確率を高めよう!

主食の炭水化物は全粒粉穀物中心に

炭水化物と言えば主食の白米や精製小麦粉で焼いたパンだ。これら精製穀物食品は健康寿命の観点からは中間的な食品だ(図-3-1, 出典3)。中間的な食品とは言え注意が必要だ。近藤博士の調査研究によると、ほぼ白米のみで、わずかの漬物を食するだけの食事をしていた米どころの村は、必ず短命村で60歳までには脳卒中でほとんどの人が倒れた。白米は玄米と異なり食物繊維(難消化の炭水化物)や健康効果が期待できる2次代謝化合物(第5章の「植物性食品を食事の中心に」を参照されたい)は取り除かれて、ほぼ糖質のみで、短命村のようにほぼ白米のみの食事をすると、砂糖を食べてるようなもので食後高血糖が繰り返され血管内皮細胞が障害を起こし、糖尿病、高血圧、動脈硬化が進行し脳卒中に至ってしまう。これとは逆のケースは低糖質ダイエットと言われるもので、糖尿病患者さんの血糖値管理の目的で行われ始めたが、今では、ダイエット(体重の減量)目的で実践している人も多い。この低糖質ダイエットは短期的には血糖値も体重も低下するのだが長期的な健康効果(つまり晩年もキレキレ生活か、自立生活を脅かす病気生活か)が気になる。詳しくは第6章 最期までキレキレ・病気フリーの食事パターンに譲り、以下、結論だけ述べる。低糖質を達成するためには高タンパク質食や高脂肪食にならざるを得ないのだが、これを動物性食品中心で達成するのか、植物性食品で達成するのかで長期的な健康効果は異なる。植物性食品による低糖質ダイエットは、明らかに最期までキレキレ・病気フリーの確率を高めるが、動物性食品中心での低糖質ダイエットは、最期までキレキレ・病気フリー効果は期待できない(出典6,7)。要は、低糖質ダイエットにおいても食事の質が重要なのだ。
さて、精製穀物は多食すると健康寿命を縮める食品(図-3-1、出典3)で全粒粉穀物は健康寿命を延ばす食品なので(図-3-2, 出典3)、白米は玄米に、精白食パンは全粒粉パン、うどんはそばに変えると最期までキレキレ確率が高まる。ただし玄米の糠(ぬか)の部分に農薬が残留しやすいので農薬検査済みの玄米を選択しよう。また白米と玄米での食後血糖値上昇を持続測定できる血糖値計で測定したことがあるが、驚くことに両者それほど差はなかった。玄米といえども食後血糖値は上がる。納豆ご飯にするとか卵かけご飯にするとか野菜を食べた後に食べるとかの工夫は必要だ。

脂質はオリーブオイル・ナッツ中心に

オリーブ油は大量に食べると健康寿命を縮める、食べ過ぎ注意の中間食品だが、その効果のスゴさから、通常の使用範囲である1日20g(大さじ約1.5杯)以下なら健康寿命を縮める心配はないので、敢えて健康寿命を延ばす食品に分類した(図-4-1、出典8)。オリーブ油のスゴイ健康効果とは、高齢者の敵・認知症の改善効果だ。認知症の予備軍である軽度認知障害のある人たちの血液脳関門(脳の神経機能に最適な環境を常に維持するために脳の毛細血管の内壁を覆っている内皮細胞どうしが固く結合して脳の血管と脳の組織との物質の行き来を制限している)はルーズになっていて最適な脳神経環境を維持しにくくなっている。オリーブ油の摂取は、このルーズな血液脳関門を改善するのだ(出典9)。また、記憶に係る海馬と言う脳領域を除けば、脳の大部分の脳神経細胞は一生を通じて新しい細胞に置き換わらない。すなわち脳神経細胞は一生ものなのだ。当然、高齢者の脳神経細胞の内部は劣化部品や老廃物が蓄積される。皮膚の様な分裂新生する組織では、こうした劣化部品や老廃物だらけになった劣化細胞は自死し、新しい細胞と入れ替わる。ところが脳の海馬部分以外では分裂新生しないので脳神経細胞内の劣化部品や不要物を処理するオートファジーのみが頼りなのだ。この頼りのオートファジーの勢いは高齢者では弱ってしまっている。そこで強い味方がオリーブオイルだ。アルツハイマー病マウスでオリーブオイルがオートファジーを活性化することで認知機能を改善することが確認されているのだ(出典10)。
また成分の50-80%が脂質であるナッツ類は、1日摂取量がそれほど多くなくても死亡リスクを下げる強力な健康寿命を延ばす食品だ(図-4-2,出典3)。1日20g程度をスィーツの代わりに毎日とりたい食品だ。
一方、飽和脂肪酸が多く含まれる動物性の油脂(肉の脂身、バター、ラード、チーズ)は血中コレステロール値を高めて動脈硬化のもとだと信じられているが、実は確たる根拠はないようである。ゴリラやチンパンジーはコレステロール値が高くっても動脈硬化を起こして心筋梗塞に至ることはない(出典11)のをご存知だろうか?ゴリラやチンパンジーは、人間のように肉(ほ乳類の肉)由来のアレルギー物質を血管壁に抱え込んで炎症を起こすことはない。人間では肉や加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン)を多食し、かつコレステロール値が高いと動脈硬化が加速し心筋梗塞に至る。ところがゴリラやチンパンジーは血管壁でのアレルギー性炎症がないのでコレステロールが高くっても動脈硬化が起こらないのだ。それならば、人間でも肉や加工肉を常食していなければ血管壁の炎症がなくコレステロールが高くっても動脈硬化が進展せず心筋梗塞や脳梗塞に至らないにちがいない。研究者の皆さ~ん。この仮説を是非とも確認してほしい。私は、この考えも背後にあって、野菜・魚介類中心の食事パターンの人たちはそれほどコレステロール値を気にすることはないと考える。図-2-6の乳製品摂取量が1日400gまでは健康寿命を延ばす効果があるので、牛乳、バター、粉チーズの風味を、この範囲で楽しもう。(ただし牛乳、バター、粉チーズにも肉に入っているアレルギー物質が少ないながらも含まれているので極端な多食は禁物だ!)
油脂で注意すべきなのはトランス脂肪酸だ。マーガリンやショートニングの製造過程で発生するトランス脂肪酸は心臓血管疾患による死亡リスクを高める(出典12)。最近はこのトランス脂肪酸を低減したマーガリンが販売されている。マーガリン好きの方は、こちらの製品を控えめに使われることをお勧めする。また、トランス脂肪酸が心配な揚げ物やお菓子を毎日多食するのはやめよう。

植物性食品を食事の中心に

野菜(図-5-1, 出典3)、果物(図-5-2, 出典3)は、健康寿命を延ばす食品だ。毎日の野菜摂取量は300gまで果物は200gまで、摂取量を上げれば上げるほどぐんぐん死亡リスクが低下する。食事を野菜中心でお腹に満足感を与え、食後のスィーツをフルーツにすることをお勧めする。
野菜は食物繊維、ビタミン類、カリウムが豊富だ。しかしそれだけではないのだ。私は若い時、土壌微生物の培養上清に多く含まれる微生物由来の2次代謝化合物から新規医薬品のタネを探していた。微生物培養上清の2次代謝化合物には驚くほど薬理活性物質が豊富なのだ。微生物の中でも、ただ単に増殖するだけの微生物(数を増やすことで子孫を残す戦略)と比較すると形態変化をして環境に様々な化合物を放出して適合する道を選んだ微生物(例えば放線菌は単細胞なのに多細胞生物のように形態を変化させ土壌環境に適応する)が圧倒的に多くの薬理活性がある有機小分子を合成していた。このように単に生存増殖をするためのDNA、タンパク質、脂質、糖質の合成のための化合物(1次代謝産物)だけでなく環境適応のための化合物(2次代謝産物)を盛んにつくる微生物から多くの医薬品が誕生した。製薬業では経済的合理性からタンク培養できる微生物から医薬品が多数つくられたが、もしも植物も微生物のようにタンク培養出来て細胞外に2次代謝化合物を放出できたら、さらに多くの医薬品が誕生することだと思う。この観点からすると、植物性食品の2次代謝産物にこそ、健康寿命を延ばす化合物が含まれているのだと考えられる。本記事で示した多くの食品が2次代謝化合物を豊富に含む植物性食品であることに注目してほしい:豆類(図-2-4)、全粒粉穀物(図-3-2)、ナッツ(図4-2)、野菜(図-5-1)、果物(図-5-2)。また研究の数は少ないが近藤博士が長寿村の食品として挙げている海藻も2次代謝化合物の観点からこのリストに加えておきたい。ジェロサイエンス(※)の進展で老化を遅らせたり逆転させたりするための分子スィッチが多く見つかってきている。将来的にはスィッチAには植物Bの産生する化合物Cあるいは化合物群Dが働いて若返りや老化が遅れるということが発見されてくることだと思う。その化合物群を濃縮したサプリメントも出来てくることだろうが、現状では、葉物野菜、緑黄色野菜、果物、イモ、豆類、全粒穀物や海藻を、できる限り種類多く頻繁に食べるのが最期までキレキレ、病気フリーの身体を得るためのポイントなのだ。
さて、ここまでの説明で、なぜ抗酸化物質による若返り効果に触れないのか?と、いぶかしく思った方もおられると思う。理由は簡単だ。抗酸化物質が全死因死亡リスクを低下させるという科学的根拠がないからだ。ビックリでしょ。でも本当です。このあたりの話は別記事で取り上げることとして先を急ぎましょう。
※ジェロサイエンス 従来、老化の仕組みを研究する基礎生物研究者とヒト慢性疾患を扱う臨床研究者は別々のグループ・学会に属し交流も少なかったが、動物で老化の遅延あるいは逆転が可能になり、ヒト実装のため基礎生物研究者と臨床研究者が協働する学際研究分野ジェロサイエンス(Geroscience)が生まれた。ジェロサイエンス仮説「加齢が多くの慢性疾患の最大のリスクであるため、加齢メカニズムを直接標的とすることで、複数の加齢性慢性疾患(糖尿病・高血圧・がん・心疾患・脳卒中等)や加齢性の体調変化を一括して改善、逆転、予防できるとする考え方」の検証に取り組み「より長く より健康な人生」の実現を目標としている。

最期までキレキレ・病気フリーの食事パターン

晩年のキレキレ・病気フリーの確率を上げる食品、下げる食品、その中間の食品を見てきましたが、もっと具体的に特定の食事パターン(地中海食、植物中心食、低糖質ダイエット、西洋型肉中心食等)自体を晩年のキレキレ・病気フリーの確率を上げるのか、下げるのか、それとも、その中間なのかを探っていこう。残念ながら和食でのこの種の研究は見当たらない。ただ和食は日本文化と同じで、米食(2次代謝物をそぎ落とした白米ではなく玄米に置き換えた方がいいですが)を中心にして、海外から入ってくる食品のいいとこどりをして和食化する柔軟性があるので、和食スタイルでどういうパターンで食品を選択すればいいのかという観点で、これら研究を見ていこう。
まず、図-6-1(出典13)の地中海食から見ていく。地中海食への遵守度が上がるにつれて直線的に全死因死亡リスクが低下する。つまり地中海食は健康寿命を延ばす食事パターンだ。この種の研究では地中海食が一番進んでいて、ジェロサイエンスの進展で最近測定できるようになった生物学的年齢(暦年齢ではなく若さや老化の程度を反映した年齢)の測定によると、1年間、地中海食で食事をすると、生物学的年齢が若返えることが確認されたのだ(出典14)。さて筆者は晩年に記憶をなくしてキレキレを楽しめなくなってしまう認知症を最も恐れているのだが・・・。地中海食に認知症改善の効果はある(出典15)のだが、地中海食をさらに改良して地中海食以上に認知症改善効果が認められているスーパー地中海食のMIND食(※)(出典16)がある。私は、このMIND食を最期までキレキレ・病気フリーの食事パターンのゴールドスタンダードとしたい。アミロイドβを除去し認知症初期の患者の認知機能の減少速度をわずかに(ほんのわずかにだ)改善する医薬品が、最近承認されたが、私が見るところMIND食の効果の方が大きいのではないかと思っている。以下がMIND食の特長だ。植物性の2次代謝物を豊富に含んでいる食品をたくさん摂取していることが分かる。食事の改善目標のリストとして活用頂きたい。

(※)MIND食とは、Mediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay(神経変性遅延のための地中海食-DASH食のハイブリッド介入食)の略で、地中海食とDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食とのいいとこどりをした食事。DASH食は、アメリカ国立衛生研究所に属する国立心肺血液研究所(NHLBI)が考案した高血圧患者用食だ。DASH食は高血圧症だけでなく、糖尿病、高尿酸血症(痛風)の人にも有効な食事だ。ただし、腎機能に障害がある人には、この食事は適応できない。

MIND食 積極的に摂るべき食品 10食品
1.葉物野菜(週6皿以上)
2.その他の野菜(1日1皿以上)
3.ナッツ類(週5皿以上)
4.ベリー類(週2皿以上)
5.豆類(週3食以上)
6.全粒穀物(1日3皿以上)
7.魚(揚げ物ではない)(週1食以上)
8.鶏肉(揚げ物ではない)(週2食以上)
9.オリーブオイル(優先的に使う)
10. ワイン(1日グラス1杯まで)

MIND食 摂取を控えるべき食品・5食品
1.牛肉・豚肉・ハム・ソーセージ・ベーコン
(週4食以下)
2.マーガリン・バター(1回/日以下)
3.チーズ(週1皿以下)
4.お菓子(週5皿以下)
5.ファストフード(週1回以下)

最後に、低糖質ダイエットに言及しよう。以下に紹介する研究は、「1つのコホート研究」であり、本記事に掲載した各種食品や地中海食の根拠となった「多数のコホート研究のデータをプールしてメタ解析した研究」と比較すると、根拠の質が低いことには注意願いたい。さて、「低糖質ダイエット」と言っても少なくとも2つのパターンがある。「肉中心の食事で達成する低糖質ダイエット」と「植物中心の食事で達成する低糖質ダイエット」の2つだ。これら2ダイエットの比較研究には、日本人を対象にした研究と米国人を対象にした研究がある。ここでは日本の研究を中心に紹介する(出典6)。結論的には「肉中心の食事で達成する低糖質ダイエット」は糖質制限が緩やかな場合は「弱い健康寿命を延ばす」ダイエットだが、厳格にやると、その弱い健康寿命の延伸効果が消失する残念なダイエットだ(図-6-2、出典6)。これは肉中心で糖質制限をすればするほど肉によるアレルギー毒性が血糖値を下げることによる良い効果を打ち消すからと考えられる。日本では打ち消し効果は大きくないが米国ではこの打消し効果が絶大で、明らかに健康寿命を縮めるダイエットだ(出典7)。一方、「植物中心食で達成する低糖質ダイエット」は日本人でも米国人でも明確に「健康寿命を延ばす」ダイエットだ(出典6,7)。ということで、低糖質ダイエットをするなら、糖質の少ない野菜を豊富に取って豆腐、納豆、湯葉、枝豆、豆スープおよび魚介類・鶏肉を中心に食事を組み立て、さらに高齢者に必要なタンパク質を補うには卵、牛乳などを許容範囲内で活用されることをお勧めする。
科学的エビデンスからは、地中海食やMIND食が、最もお勧めだ。ただ、個人個人の体質や好みによっては、例えば植物中心の低糖質ダイエットや、あるいは肉を控えた和食が個人的な正解である可能性は十分にある。本記事および図(各食品の1日摂取量と死亡リスクデータ)を参考に、自分に馴染む食事習慣を工夫して、「最期までキレキレ・病気フリー」の確率を高めていただきたい。

まとめ

最期までキレキレ・病気フリーの晩年をゲットしたければ、守るべき具体的なルールは以下だ。
1. 肉中心の西洋型食事を和食や地中海食のような野菜・         魚介類・鶏肉中心の食事パターンに置き換える。
2. 低糖質ダイエット体質の方は、肉中心ではなく魚介類・鶏肉と植物性食品中心の食事で低糖質を達成する。
3. 各種植物性食品(葉物野菜、緑黄色野菜、根菜、イモ、カボチャ、豆類、全粒粉穀物、海藻、ナッツ、果物等)を多く食べる。
4. 肉(牛肉・豚肉・羊肉等のほ乳類の肉)とその加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン等)は常食多食をしない。ご褒美食としてたまに食べる。
5. 肉と置き換えて食べるタンパク質豊富な食品は植物性タンパク質が豊富な豆類(豆腐、納豆、豆乳、湯葉、枝豆、大豆煮物等)や魚介類および鶏肉を中心に、1日の摂取制限内で乳製品、卵で補う。
6. 白米・食パン・うどんが常食であれば、白米は、できれば残留農薬フリーの玄米に食パンは、可能であれば全粒粉パンに置き換える。うどんはそばに置き換える。
7. スィーツ・お菓子は果物・ナッツに置き換える。

おわりに

本記事の「食事選択のルール」は厳密に言うと科学上の「仮説」です。こう言うと、「えーっ、科学的に証明されたルールじゃないんかい!」という声が聞こえてくるが・・。実は、観察研究を基にしたメタ解析研究は仮説提起のための学問で、結論を出すための学問だとは考えられていない。仮説の真偽を判断するには医薬品の効力を確認するランダム化2重盲検プラセボ対照試験(RCT)という厳密な方法が適応される。しかしながら、観察研究によるメタ解析研究も捨てたものではなく注意深く実施された観察研究のメタ解析の結果は、RCTの結果と同じになることが確認されている(出典17)ことからギリギリ攻めるために観察研究のメタ解析結果で、本記事を組み立てた。これら仮説が、ジェロサイエンスの進展で可能になってきた暦上の年齢ではなく生物学的年齢の測定により迅速に検証できるようになるだろう。さらに、この測定技術がより簡単、安価に進歩して個人が、自分の食習慣や運動習慣を変えた時、生物学的年齢が若返るのかどうかを簡易にチェックできる日が1日も早く来ることを期待して本記事を終わる。

出典

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出典12 James N Kiage et al.,2013, “Intake of trans fat and all-cause mortality in the Reasons for Geographical and Racial Differences in Stroke (REGARDS) cohort” Am J Clin Nutr. 2013 May;97(5):1121-8. doi: 10.3945/ajcn.112.049064.
出典13 Sepideh Soltani et al.2019, “Adherence to the Mediterranean Diet in Relation to All-Cause Mortality: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies” Adv Nutr. 2019 Nov 1;10(6):1029-1039. doi: 10.1093/advances/nmz041.
出典14 Noemie Gensous et al., 2020, “One-year Mediterranean diet promotes epigenetic rejuvenation with country- and sex-specific effects: a pilot study from the NU-AGE project” Geroscience. 2020 Apr;42(2):687-701. doi: 10.1007/s11357-019-00149-0.
出典15 Jialei Fu et al., 2022, “Association between the mediterranean diet and cognitive health among healthy adults: A systematic review and meta-analysis” Front Nutr. 2022 Jul 28:9:946361. doi: 10.3389/fnut.2022.946361.
出典16 Morris MC, 2015, “MIND diet slows cognitive decline with aging” Alzheimers Dement. 2015 Sep;11(9):1015-22. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011.
出典17  Lukas Schwingshackl et al., 2022, “An Empirical Evaluation of the Impact Scenario of Pooling Bodies of Evidence from Randomized Controlled Trials and Cohort Studies in Nutrition Research” Adv Nutr. 2022 Oct 2;13(5):1774-1786.
doi: 10.1093/advances/nmac042.

 

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「予防」は「治療」に勝る!少し古い話になりますが・・・・・。 NHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン」(2017年7月22日) を、...