人生が残り少ない高齢者は、毎日を味わいながら生きたいと思っている。と同時に最後までボケずに、他人の助けを借りずに生活したいと強く願っています。そこで今回は最先端の長寿科学から見えてくるエビデンスのある「最期まで元気対策」メニューを、「ピンピンコロリ大作戦」として紹介したいと思います。あと十年経てば実現?と言った項目はカットした実行可能なリストです。(高齢者には時間は貴重!)このメニューは、今後の私の記事のメニューにもなっています。本ブログの今後の方向を知りたい方は是非、最後までお読みください。
現状の高齢者医療
図-1を、ご覧ください。厚生労働省が発表している年齢階層別の死亡率を図にしたものです。(出典1)
縦軸は死亡率の対数で横軸は年齢階層です。歳をとるとともに各種の病気による死亡率が爆発的に(縦軸の数字に注目!)増加することが分かります。今までの医療は癌、脳卒中や心筋梗塞といった個別の病気への、「もぐらたたき的アプローチ」で、決して効率が良いとは言えません。この病気になってから医療を受ける治療中心のアプローチこそが後期高齢者の莫大な医療費の原因と言えます。
老化をスローダウン
図-1をもう一度見てください。高齢者を、悩ませる病気はいろいろだけれど、その増加速度は全ての病気でほぼ一定であることに気付いた方も、おられるのではないでしょうか。そうです、これらの病気は老化という生命現象の表現形と見ることができます。それなら病気になる前に、老化そのものをスローダウンさせることができれば老化の表現型としての各種の病気の発症も、まとめて抑制できるよね(図-2)と長寿研究者たちは考え研究してきました。
普通の言葉では病気の予防研究です。最近の研究は目覚ましくて、老化をスローダウンできると確信する段階にまで、到達したのです。
長寿遺伝子
なぜ長寿研究者たちは老化をスローダウンできると確信するに至ったのでしょうか?彼らの頭の中を覗いてみましょう。彼、彼女らの確信は、どうも地球上の生命の歴史から来ているようなのです。というと、「え~っ!」と思うでしょっ!その物語は、こうなんです。この地球上のどこかで40億年ほど前に一番最初の生命が誕生しました。この生命体は環境中の栄養物を取り入れ盛んに増殖をして勢力を拡大しました。ところが環境の激変により栄養物が枯渇する事態が生じると、これら生命体は容易に死滅し命を繋ぐことは出来ませんでした。あるいは、栄養豊富な場所に、留まるしかありませんでした。しかし、ある時、ラッキーな生物が特別な遺伝子を獲得しました。生物が飢餓の様な危機的状況に置かれると作動する遺伝子です。この遺伝子によって生物は増殖を停止するとともに、再び、良い環境に戻るまで機能を劣化させずに耐え忍べるようになったのです。すなわち、増殖の停止にプラスして、損傷した遺伝子や生体部品を修復する能力をも獲得したのです。こうすることで環境がよくなった時に若々しい命で再び勢いよく増殖できる体制を整えて耐え忍んだということです。この生存の危機に対応する遺伝子こそ、実は、老化により損傷した遺伝子や生体部品を修復し、老化をスローダウンし、若返らせる長寿遺伝子であったのです 。(出典2)
カロリー制限
この遺伝子のおかげで、長大な時間をかけて命がバトンタッチされ今の私たちにまで繋がっているというわけです。その証拠に、 至適栄養状態を100%とすると70%程度の栄養状態で飢餓状態を人工的に作って(カロリー制限して)やると、出芽酵母、ワムシ、線虫、ショウジョウバエ、グッピー、ニワトリ、イヌ、ネズミ等の寿命が伸びる事が確認されています。(出典3)ヒトでは、カロリー制限による寿命研究は難しいのですが、サルで健康寿命の延長は認められていますので、ヒトでも健康寿命の延長があると考えられています。(出典4)
ピンピンコロリ大作戦
この長寿遺伝子をONにする方法は、身体に「生存の危機」だと思わせることです。その方法を図-3のピンピンコロリ大作戦メニューに示しました。(出典5)
具体的には「カロリー制限」のほかに「運動習慣」もヒトで長寿効果があることが分かっています。(「ご機嫌に体力がつくインターバル速歩」を参考にしてください。「インターバル速歩」の「早歩き」が身体に「生存の危機」を感じさせるわけです。)また、「カロリー制限」で動く「生存の危機感知センサー」の研究が進み、このセンサーを刺激する「医薬品」、「サプリメント」も分かってきています。また疫学研究のメタ解析やランダム化プラセボ対照試験から死亡リスクを低下させる「食品」「食事」や、逆に死亡リスクを高める「食品」「食事」さらに「家族・社会との絆」についても分かってきました。これらのアプローチのどれとどれを組み合わせると、より大きな効果が出るのかの研究も進んでいます。あと、忘れてはいけないのは女性か男性かや人種や遺伝子の違いが、これらアプローチの仕方に影響があることも少しずつ分かってきました。これらアプローチを、ご機嫌に簡単に毎日の生活に取り込んで、習慣化してしまうことに力点を置いた記事を本ブログに順次掲載していきますので、乞うご期待。お楽しみに!
出典
出典1 厚生労働省 令和元年・人口動態統計月報年計(概数)の概況 統計表・第5表 ttps://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/dl/h5.pdf
出典2 Sinclair DA & LaPlante MD, 2019, “Lifespan: Why We Age? and Why We Don’t Have To” 邦訳 デビッド・A・シンクレア 2020年 「老いなき世界LIFESPAN」
出典3 Fontana L & Partridge L, 2015, “Promoting health and longevity through diet: from model organisms to humans.” Cell, 01 Mar 2015, 161(1):106-118 DOI: 10.1016/j.cell.2015.02.020 PMID: 25815989 PMCID: PMC4547605
出典4 Mattison JA et al., 2017, “Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys”, Nat Commun. 2017 Jan 17;8:14063. doi: 10.1038/ncomms14063.
出典5 Seals DR, Justice JN & LaRocca TJ, 2016, “Physiological geroscience: targeting function to increase healthspan and achieve optimal longevity” J Physiol. 2016 Apr 15;594(8):2001-24. doi: 10.1113/jphysiol.2014.282665. Epub 2015 Mar 11. 表1を参考に作成