これって何故だめなの?

「毎日お肉」が身体に悪い本当の理由とは?

はじめに

「お肉(赤肉:牛肉・豚肉などの、ほ乳類の肉;及びその加工肉)を毎日食べると、認知症、寝たきりへ一直線だ」との記事は読んだ。そうかもしれないが、理由が分からないと納得できない!だって、毎日お肉で体調、絶好調なんだから!と言う方も、おられるのではと思いますので・・・・。今回は、どんな理由で、「毎日お肉」は、死亡リスクを高めるのか?に迫ってみることにしました。この理由は、「毎日お肉」は、死亡リスクを上げるが、逆に鶏肉、魚肉、豆類の常食は、死亡リスクを上げない。と、いうものでないといけません。この点について、一番つじつまが合っているビックリの理由を紹介したいと思います。この理由が分かると、お肉のおこげは、発がん性があるというから取り除き、コレステロールの多い脂身は、カロリー高いし動脈硬化のもとだからと、取り除いて食べればOKだろ?という考えが甘いことが分かります。それでは、研究者たちが切り開いている知の最先端へ、ご一緒に行ってみましょう。

「毎日お肉」で死亡リスクを上げる「犯人」は?

「毎日お肉」で、死亡リスクを上げる「犯人」として、今まで研究者の間で、疑われてきた主なものは: ①肉のこげに、発生する強力な発がん物質(複素環アミンと多環芳香族炭化水素)が犯人だとする「おこげ犯人説」 ②肉に高濃度に含まれる飽和脂肪酸が犯人だとする「『飽和脂肪酸=脂身』犯人説」 ③肉に高濃度に含まれるカルニチンやコリンは、腸内細菌に代謝され腸から吸収され肝臓で動脈硬化やがんの原因になるTMAO(Trimethylamine–N-oxide)という化合物に変換される。こいつが犯人だとする「TMAO犯人説」④肉に含まれるヘム鉄は発がん性のあるニトロソアミンの生成を促進し、加工肉に添加される亜硝酸ナトリウムや硝酸ナトリウムは、このニトロソアミンを生成する。こいつが犯人だとする「ニトロソアミン犯人説」。 では、これら犯人は、鶏肉、魚肉では、ほとんど問題になら無い程度にしか存在しないのだろうか?あるいは、本当に死亡リスクを上げているのだろうか?これらの点を検討していきましょう:①のおこげに含まれる化合物は、高温調理した魚肉・鶏肉にも含まれており特に複素環アミンは魚肉・鶏肉の方が牛肉よりも高濃度に含まれています。(出典1)②飽和脂肪酸の摂取と、全死亡リスク、心筋梗塞死亡リスク、脳卒中死亡リスク、糖尿病死亡リスクとは関連がないことが観察研究のメタアナリシス研究として報告されています。(出典2)③TMAOへと変換される元化合物であるL-カルニチンは、確かに赤肉に多く含まれていますが、もう一つの変換元化合物であり、より摂取量が多いコリンは魚ばかりか野菜や果物にも多く含まれており、お肉だけがTMAOを発生するわけではないことが分かっています。(出典3) ④動物実験ではニトロソ化合物が発がん物質であることが確認されていたので、ヒトではどうかの確認が、2つの前向きコホート研究をプールして54万5770人に対して食事性のニトロソ化合物と発がん(グリオーマ)の関係を見てみたところ、ニトロソ化合物と発がんとの間に関係を見出せずニトロソ化合物犯人説は疑問が持たれています。(出典4 )ということで、これら犯人候補は全員シロでした。こうした中、最近、これが犯人だろうと考えられているのが、赤肉の細胞表面にある糖鎖末端のシアル酸の1種であるN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)です。「そんな奴、聞いたことないよ」という声が聞こえてきそうですが、この耳慣れない真犯人の全貌に迫っていきましょう。

Neu5Gc犯人説

一昔前の教科書には、細胞表面は、つるっとした絵が描かれていましたが、実際には細胞表面は水草の様な糖鎖と呼ばれる構造体でおおわれています。(図-1) 糖鎖は、ブドウ糖や果糖といった単純な糖(単糖)が、数珠のようにつながったもので、単糖2個からなる短い糖鎖から、何百も連なった長い糖鎖まで存在します。各種臓器細胞には、その臓器細胞独自の糖鎖がはえています。この糖鎖の末端にはシアル酸と言う独特の糖が配置されています。哺乳類のシアル酸はN-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac)とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)の2種がありますが、ヒトはチンパンジーと袂を分かった後の約280万年前にNeu5AcからNeu5Gcを合成する酵素(CMP-Neu5Ac水酸化酵素(CMAH)を失くしてしまい合成できるのはNeu5Acのみになってしまいました。(図-2)ところが、ほ乳類である牛肉や豚肉(Neu5Gcが豊富に含まれる)を食べるとNeu5Gcが取り込まれ、ヒトにとっては異物であるNeu5Gcを血管内皮や大腸の細胞表面の糖鎖に取り込んでしまう。この異物への免疫反応が起こり血管内皮への免疫攻撃による持続的炎症が動脈硬化を、大腸消化管への免疫攻撃による持続的炎症が大腸がんを、引き起こすとするのが「Neu5Gc犯人説」です。この仮説を証明するために、研究者たちはNeu5Gc合成酵素/CMAHを先天的に失くしているCMAH欠失マウスを遺伝子工学的に作成しています。この「ヒト型」マウスにNeu5Gcを含有する餌を与えると、予測通り動脈硬化(出典5)や大腸がん(出典6)が発生することを確認したのです。またこの「ヒト型」マウスに高脂肪食を食べさせて肥満マウスにしたところ糖尿病を発症することも確認されました。(出典7) 植物中心の食事から、お肉中心の西洋食に移行することで、心筋梗塞、大腸がん、糖尿病の発症率が高まるという従来言われてきたことが見事に再現されたのです。たた1つの酵素が欠損することで、こんなにも大きな変化が起こるなんて、ちょっと、びっくりですよね。

Neu5Gcを失くしたヒト祖先の生存上の利点は何だったのか?

シアル酸は細胞の表面を覆う糖鎖の最も外側に位置する糖です。末端に位置することからヒト細胞に病原体が侵入する際には、重要な役割を果たしています。ヒトの祖先は、ほ乳類を狩猟し食べていましたので人畜共通の病原体による感染は生存を脅かす脅威だったはずです。ヒトの祖先は、Neu5Gcを失うことで人畜共通の感染症から逃れたと考えられています。もう少し正確にいうと、ヒトの祖先の中でNeu5Gcを失ったものだけが生き残るような感染症があったに違いありません。実際、チンパンジーのマラリア原虫は、感染の足場になるNeu5Gcがないことでヒトには感染することができないことが分かっています。(出典8) 別の観点から考えられている大きなメリットは、狩猟で獲物をゲットするのに有利な長距離を走っても疲れにくい身体を得たという可能性です。この可能性は、先ほど紹介した遺伝子工学的に作成した「ヒト型」マウスと元のマウスに、走れるだけ走らせたところ、「ヒト型」マウスは疲れて止まるまでの時間が、元マウスと比較すると、何と、2倍も長くなっていたのです。(出典9) この驚異的な能力向上が狩猟効率を革命的に向上させたことは、疑う余地がありません。さらに注目すべき点は、ほ乳類でも脳の神経細胞ではNeu5Gcを合成していません。Neu5Gcは脳の構造や機能に障害となる働きを持っていると考えられています。ヒト祖先は全身でNeu5Gcを合成せず全身を他の生物の脳と同じ状態にモデルチェンジしたとも言えます。Neu5Gc合成酵素を失ったのは今から約280万年前で、210-220万年前頃からヒト祖先の脳体積の爆発的増加が起こっているのも、興味深い一致です。(図-3)(出典10)

ヒトに不都合なNeu5Gcが少ない食品は、どれ?

Neu5Gcを含有している食品を避けると、動脈硬化、がんや糖尿病になるリスクが減ることは理解できた。それでは、「どういう食品に、Neu5Gcが含まれているのか?これさえ知っていれば無敵だね。」と思われた皆さん。細かいリストを覚える必要はありません。きわめてシンプルです。図-4をご覧ください。基本的には、ほ乳類に注意すればOKです。ほ乳類はNeu5Gcを発現してるので、お肉は避けます。牛乳には、お肉ほどではないですが、少し含まれています。チーズは乳の中のNeu5Gcが濃縮されるので注意しましょう。鶏肉、鶏卵、魚肉には含まれていません。ただし魚類の卵でキャビアには何故か驚くほど多量のNeu5Gcが含まれています。(出典6)宝くじ当てて、お金持ちになっても、キャビアを毎日食べるのは止めておいたほうがよさそうですね。植物である野菜・果物には、Neu5Gcは含まれていません。やはり、植物(野菜果物)は、私たちの味方ですね。

まとめ

1.「毎日お肉」で死亡リスクを上げている犯人は①お肉のおこげ ②お肉の脂身 ③お肉に含まれるカルニチンやコリン ④お肉に含まれているヘム鉄 が考えられてきたが、どれも赤肉だけが死亡リスクを上げることを説明できず犯人リストから脱落しました。
2. 最近、赤肉だけが死亡リスクを上げることが説明できる、細胞表面に存在する糖鎖の末端糖である「Neu5Gc犯人説
」が注目されています。Neu5Gcは消化管から吸収され血管内皮や大腸消化管粘膜の糖鎖に取り込まれます。この取り込まれたNeu5Gcは本来人間は持っていない糖なので異物として免疫攻撃を受け血管や大腸に持続的炎症が起こり、これが原因で動脈硬化や大腸がんが起こることが実験的に証明されています。また、毎日お肉で肥満になると糖尿病になりやすいことも、この説で説明ができます。
3. Neu5Gcを失うことでヒトの祖先は、人畜共通感染症から逃れたり、長距離を走っても疲れない身体能力を獲得したり、脳サイズの増大にもつながったのではないかと考えられています。
4. Neu5Gcを含まない食品を取ることで死亡リスクを下げることができます。野菜・果物、魚肉、鶏肉、鶏卵にはNeu5Gcを含まないか、ごく少ししか含まれていません。注意すべきは、ほ乳類の肉である赤肉とその乳からつくられるチーズです。魚の卵であるキャビアにはNeu5Gcが多く含まれることは覚えておきましょう。

出典

出典1 Heddle JA, Knize MG, Dawod D & Zhang XB, 2001, “A test of the mutagenicity of cooked meats in vivo” Mutagenesis. 2001 Mar;16(2):103-7. doi: 10.1093/mutage/16.2.103.
出典2 de Souza RJ et al., 2015, “Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies” BMJ. 2015 Aug 11;351:h3978. doi: 10.1136/bmj.h3978.
出典3 Patterson, KY., et al., 2008, “USDA Database for the Choline Content of Common Foods : Release Two.” Agricultural Research Service, U.S Department of Agriculture; 2008.
出典4 Dubrow R et al., 2010, “Dietary components related to N-nitroso compound formation: a prospective study of adult glioma” Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2010 Jul;19(7):1709-22. doi: 10.1158/1055-9965.EPI-10-0225. Epub 2010 Jun 22.
出典5 Kawanishi K et al., 2019, “Human species-specific loss of CMP- N-acetylneuraminic acid hydroxylase enhances atherosclerosis via intrinsic and extrinsic mechanisms” Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Aug 6;116(32):16036-16045. doi: 10.1073/pnas.1902902116. Epub 2019 Jul 22.
出典6 Samraj AN et al., 2014, “A red meat-derived glycan promotes inflammation and cancer progression” Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jan 13;112(2):542-7. doi: 10.1073/pnas.1417508112. Epub 2014 Dec 29.
出典7 Sarah Kavaler S et al., 2011, “Pancreatic beta-cell failure in obese mice with human-like CMP-Neu5Ac hydroxylase deficiency” FASEB J. 2011 Jun;25(6):1887-93. doi: 10.1096/fj.10-175281. Epub 2011 Feb 24.
出典8 Martin MJ et al., 2005, “Evolution of human-chimpanzee differences in malaria susceptibility: relationship to human genetic loss of N-glycolylneuraminic acid” Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Sep 6;102(36):12819-24. doi: 10.1073/pnas.0503819102. Epub 2005 Aug 26.
出典9 Jonathan Okerblom J et al., 2018, “Human-like Cmah inactivation in mice increases running endurance and decreases muscle fatigability: implications for human evolution” Proc Biol Sci. 2018 Sep 12;285(1886):20181656. doi: 10.1098/rspb.2018.1656.
出典10 Chou H-H et al., 2002, “Inactivation of CMP-N-acetylneuraminic acid hydroxylase occurred prior to brain expansion during human evolution” Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Sep 3;99(18):11736-41. doi: 10.1073/pnas.182257399. Epub 2002 Aug 21.
出典11 Atukoralea PU et al., 2015, “Influence of the Glycocalyx and Plasma Membrane Composition on Amphiphilic Gold Nanoparticle Association with Erythrocytes” Nanoscale. 2015 July 14; 7(26): 11420–11432. doi:10.1039/c5nr01355k.
出典12 Dhar C, Sasmal A, and Varki A, 2019, “From “Serum Sickness” to “Xenosialitis”: Past, Present, and Future Significance of the Non-human Sialic Acid Neu5Gc” Front Immunol. 2019; 10: 807.Published online 2019 Apr 17. doi: 10.3389/fimmu.2019.00807
出典13 Robson SL & Wood B, 2008, “Hominin life history: reconstruction and evolution” J Anat. 2008 Apr;212(4):394-425. doi: 10.1111/j.1469-7580.2008.00867.x.

 

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